理論物理化学研究室
3 |量子多分子系ダイナミクス・シミュレーションによる量子液体・量子固体の動的物性の先験的解明
水素分子やヘリウム原子、プロトンのような質量の小さい粒子の運動は、十分な低温では量子性・波動性を帯びるために、古典力学の原理(ニュートン方程式)に従わずに、量子統計力学の原理に従うことが知られています。このような「量子粒子」から成る液体・固体は量子液体・固体と呼ばれ、その物性は実にユニークで多くは実験的に未だ解明されていません。私たちは実験ではなく、「経路積分セントロイド分子動力学(CMD)シミュレーション」をコンピューターで行って、これら量子液体・量子固体の量子ダイナミクス物性を先験的に明らかにしてきています。多自由度の量子系の時間発展をこのように計算で追跡する技法は理論化学の分野では先端的なものです。液体水素の分子の集団運動は、中性子非弾性散乱実験によって解明される前年に私たちがそのプロファイル(動的構造因子)をCMDから予言し、翌年にそれが実験で実証されました。また、液体水素などの量子液体の輸送係数もCMDから正確に計算されることを示してきています。量子多分子系の量子ダイナミクスの解明は今後も理論化学分野の大きな研究課題であり続けます。
4 |計算科学的手法による複雑多分子系の構造・反応機構の解明及び新しい理論計算法の開発
電子・原子・ 分子といった微視的粒子と光が関与するさまざまな反応ダイナミクスの本質を量子力学や古典力学、統計力学など物理学の学問を基礎においた種々のシミュレーション技法を通じて解明することを目指しています。レーザー場と分子の相互作用を扱うテーマと炭素・ホウ素・ 窒素などからなるクラスターの自己組織化ダイナミクスを研究しています。前者は、液体アルゴン内の塩化水素分子が特殊な波形を有する赤外レーザーの照射を受け、断熱追従過程に基づき特定の振動状態に遷移する仕組みを時間依存量子波束法と古典分子動力学計算法を組み合わせた量子古典混合近似計算法を用いて調べています。後者については、半経験的電子状態計算法や第一原理電子状態計算法等の量子化学計算法と最小作用の原理を用いた分子動力学計算法を組み合わせたシミュレーション技法を用い、主に窒化ホウ素フラーレンの成長機構の解明に取り組んでいます。