有機金属・錯体化学研究室
1 |機能性材料分子素子を目指した直鎖状ナノクラスター錯体の創製
一次元に遷移金属イオンを配列させた直鎖状多核錯体(分子性金属鎖)はその特異な構造から通常の錯体には見られない特異な物性(電気伝導性、発光特性、磁気特性)が知られている。また、これら錯体はナノテクノロジーにおける機能性材料分子素子として期待されているため非常に興味が持たれている化合物であるが、一般に分子性金属鎖は熱力学的に不安的なため、合成が難しく報告例は非常に限られている。我々の研究室では、独自に開発した多座ホスフィン配位子を用いることにより直鎖状多核錯体が安定化されることを見出し、パラジウム、白金、金などの後周期遷移金属イオンを3核から最長8核まで一次元に配列させた直鎖状多核錯体を合成することに成功した。パラジウムや白金錯体は、分子ワイヤーを目指した機能性開発に取り組んでいる。さらに金錯体では金属核数が増えるにつれて発光波長が長波長シフトすること、また、その発光が塩素イオンにより消光される特異な挙動を見出している。
2 |多核金属反応場による反応開発
周期表の大半を占める遷移金属元素はそれぞれ特徴ある反応性を示すことから触媒反応に用いられ医薬品・農薬・電子材料などの大量生産に大きな貢献をしているが、その触媒の多くは分子内に一つの金属イオンを含む単核錯体である。一方、遷移金属を同一分子内に複数有する多核錯体は金属間の相乗的な協同効果により単核の錯体では起りえない形式の新奇な反応性や高い反応性を示すことが期待されるため、新しい化学の開拓において非常に期待の大きな分野である。我々の研究室では後周期遷移金属であるパラジウム、ロジウム、銅などの金属イオンをホスフィン系多座配位子により骨格構築した多核錯体の反応性を検討し、エネルギー消費量の少なく環境に優しい触媒反応の開発を目指している。これまでに、銅2核錯体を用いると二酸化炭素が温和な条件でギ酸に変換される反応を見出した。また、ロジウム2核錯体上で酸素分子が可逆的に結合する挙動を明らかにしており、酸素による酸化反応への応用を検討している。
3 |酵素機能を模倣した多核錯体の合成
生体内には、生命維持や代謝を司る重要な反応が酵素を触媒にすることにより極めて効率的に行われていることが知られている。近年、酵素の構造がX線構造解析により明らかになるにつれて、その酵素の活性中心に金属クラスターが存在していることが分かってきた。例えば、植物が水から酸素を発生させる光合成系Photosystem IIの酸素発生中心OECにはマンガン-カルシウムクラスターが、また、水素分子の活性化や生成を行うヒドロゲナーゼには、スルフィド架橋鉄-ニッケル錯体があることが分かっている。また、窒素固定酵素(ニトロゲナーゼ)活性中心にはFe7Moからなる金属クラスターが存在し、温和な条件で空気中の窒素をアンモニアに還元している。我々の研究室では、これら酵素の活性中心の構造や機能を人工的に模倣した多核錯体の合成研究を行い、効率的な物質変換反応の開発に繋げる計画である。